盗まれた手紙
ポーの「盗まれた手紙」。手紙の効力と交換の深い意味には触れずに、手紙の発見について見てみる。手紙の在り処は警察の警察的な努力によって綿密に調べられた。が、犯人である大臣の能力を低く見積もり過ぎたようだ。総監は事件に関し「単純で奇妙」という。それ故に参っている。なのに、デュパンの「事が余りに単純だから返って当惑させるんだよ」と言う本質的な言葉に「馬鹿を言っちゃいかん」と笑って応じる。デュパンは「その謎ははっきりしすぎるかな」とか「少々わかりきっていすぎるんだよ」と暗示するが凡庸な総監は面白がって笑うだけで本気にしない。推理者の知力を相手の知力に合致させていないことが手紙の見つからない原因であることに思考が及ばない。デュパンは「警察の捜査は彼らの労力の及ぶところまでは完璧になされた」「執れた手段は、その種の最上のものであったばかりではなく、完全無欠なところまで実行された。手紙が彼らの捜査範囲内に置いてあったなら、きっと見つけただろう」という。つまり彼らは彼らのやり方に於いては完璧な仕事をしたと保証する。さらにデュパンは「犯人は隠された探す場合にとる警察の一本調子な方針についてのあらゆる考えは、みんな必ず犯人である大臣の心に浮かんだに違いない」という。そして「大臣の知力が総監の理解力のいくぶん上か、あるいは下であること」が手紙の発見に至らない理由であると分析する。…大臣が手紙をどこに隠したか。凡庸な警察の注意の届かない平凡な場所に手紙はあった。つまり隠さなかったのだ。
0コメント