富士山

老人は、短い診察が終わると医師から処方箋をもらった。些か驚いた老人はもういちど医師に面会して理由を尋ねた。
「この薬の量はいったいどうゆうことです?」
医師は無表情に「副作用が多い病気だからね」と言った。
それにしても多すぎるのではないか。との疑念が頭から離れない。ゴーゴリの主人公のみたいなその老人は、ありったけの勇気を振り絞るようにして、この威厳者に向かってやっと口を開いた。
「この薬はなんの薬ですか?」
「主たる症状を抑える薬です」
「分かりました。ではこの薬は?」
「副作用がありましてね。そのためのお薬です」
老人は絶望して窓からみえる山を眺めた。そして今度は現実の山を見るのであった。
「それにしても多いですね」
「はあ。それは副作用を抑える薬のほかに、そのまた副作用を抑える薬と…つまり終わりがないんです」
「だからこんなにたくさんあるんですね」
「まあ、そういうことなんです。適当なところでやめればいいのですけれども、私の性格がつまり慎重さがそうさせるんですな。困ったことです」
「いえいえ、困るのは患者の方ですよ」
「なんならこれもついでに処方箋に書いときましょう」
「え!まだあるんですか?」
「終わりがないと言ったじゃないですか」
「いえ、そろそろ終わってもいいかと思いますが……色々な意味でね……ところでこの大きな薬はなんの薬ですか?」
「別に大したことありません。これらの薬を飲んだことを忘れないための薬です。性格上念には念をというのが私のモットーでありますから…」
「なんだか騙されているみたいに感じますが…こんな富士山のように薬があっては…」
「そこは安心して下さい。トラック3台は手配してありますし、下剤も相当な量入っていますからすぐに排泄されましょう。だからあなたは永遠に休むことなく薬を飲み続ければいいのです!」

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