胚種対峙性「E・クレッチュマー」

E・クレッチュマーは「天才の心理学」の中で胚種対峙性という生物学的な概念が才能の育成に貢献する述べる。「個々の偉大な人格においては、生物学的交配の効用、換言すれば、何ゆえに異系交配によって天才が生じ得るかの理由がいっそう明らかに看取される。極端な場合には、異系交配は全く『胚種対峙性』とも言うべきものとなる。このことが、人類の生物学または病理学において重要であることを強調したのは特にホフマンであって、これはまことに当を得た所説と思われる。これによると、個人の心理学的構造は時にはなはだ錯綜しており、この二つのたがいに激しく拮抗する遺伝要素が、一生を通じて極端に対峙することがある。この対峙性は、感情方面では激情を左右する因子としてはたらき、そのために、均衡を失いやすい不安定性や、激情の重圧や、あるいは天才を駆って静穏な因習的業務と生の安逸とから高く超越させる、かの休みない内的衝迫を生じさせる。また知的方面においては、精神的視野をひろくし、才能の多面性と、その錯綜した豊富さを規定するために役立つ。かくてこの対峙性は偉大な人格生成への原動力となるのである」。例えにゲーテとビスマルクを挙げている。「たとえばゲーテの父は無味乾燥で几帳面で厳格であり、母は明朗でたぎり出る機知に富んでいて、二人の性質は極端に相反していた…。ビスマルクの場合も父方の朴直な実利主義と殿様気質とが、母方の有識家族の上品な精神的繊細さや、不断のいらだちや、過敏や、氷のような冷淡さ等と鋭く対峙している」。またこうも言う。「…こうして異系交配は精神内部の対峙性の原因となる。感情の緊張と、鎮め難い熱情と、精神的不安定性とがこれに規定される。しかし天才を作る前提ともなる異系交配はまた精神病理的なものの原因ともなる。それゆえに異系交配は無害もののではなくて、利害をあわせ持つ両刃の剣の過程である。順調な場合にはもっともみのりの多い新生物の胚種をはらむが、組合せが不適応な場合は、性格や本能の特徴が抹殺され、崩壊から破局にまで立ち至る。そこで異系交配の問題は同時に『天才と狂気』の問題であり、これと不即不離の関係に立つものであることが理解されるのである」。以上引用は岩波文庫「天才の心理学」から。

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