「人を動かす」は「人を動かさない」
D・カーネギーの『人を動かす』からいくつか抜粋しよう。
「人を動かす秘訣は、この世に、ただ一つしかない。この事実に気づいている人は、はなはだ少ないように思われる。しかし、人を動かす秘訣は、間違いなく、一つしかないのである。すなわち、自ら動きたくなる気持ちを起こさせること-これが、秘訣だ」
「夏になると、私はメーン州へ魚釣にいく。ところで、私はイチゴミルクが大好物だが、魚は、どういうわけかミミズが好物だ。だから魚釣をする場合、自分の好物のことは考えず、魚の好物のことを考える。イチゴミルクを餌に使わず、ミミズを針につけて魚の前に差し出し、『一つ、いかが』とやる。人を釣る場合にも、この常識を利用していいわけだ」
「アメリカの心理学者オーヴァストリート教授の名著『人間の行為を支配する力』に次のような言葉がある。『人間の行動は、心の中の欲求から生まれる…だから、人を動かす最善の法は、まず相手の心の中に強い欲求を起こさせることである。商売においても、家庭、学校においても、あるいは政治においても、人を動かそうとする者は、このことをよく覚えておく必要がある。これをやれる人は、万人の支持を得ることに成功し、やれない人は、一人の支持者を得ることにも失敗する」
「人を説得したければ、相手に気づかれないようにやることだ。誰にも感づかれないように巧妙にやることだ。これについてアレクサンダー・ホープは、こう言っている。『教えないふりをして相手に教え、相手が知らないことは、忘れているのだと言ってやる』。三百年以上も昔、ガリレオはこう言った。『人にものを教えることはできない。自ら気づく手助けができるだけだ』…」
「優れた心理学者ウイリアム・ジェイムズは『人間の持つ性情のうちで最も強いものは、他人に認められることを渇望する気持ちである』と言う。ここでジェイムズが、希望とか要望とか待望とかいう、なまぬるい言葉を使わず、あえて『渇望する』と言っていることに注意されたい。これこそ人間の心を絶えず揺さぶっている焼けつくような渇きである。他人のこのような心の渇きを正しく満たしてやれる人はきわめてまれだが、それができる人にしてはじめて他人の心を自己の掌中に収めることができるのである」
以上『人を動かす』から。
人を動かすためには、人を動かそうなんて考えてはいけない。人は他人によって動くのではなく、自分から動く。動かそうとする相手は、自身の内面の声によってしか動かない。いくら動かそうとしても無駄な骨折りにしかならない。だから、その内面に刺激を与えるようして、遠回しに心に訴えるのが技術であって、決して「相手を動かしてやろう」などと不遜な考えを抱いてはいけない。
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